世の中には、うかつに「呼んではいけない」とされる“名前”があるのをご存知でしょうか? 現代人である私たちにはちょっと想像しづらいことですが、かつて、人や物の名前は、それ自体が特別の意味を持っていました。
決して名前を知ってはいけない、呼んではいけない……そんな存在を描くホラー映画が『バイバイマン』です。
■人も物も、名付けることで初めて存在する。
人間が他人や事物を認識するために必要不可欠なもの……それは“名前”です。
ある特定の存在に対して名前を与えること……例えば「鉄」「金魚」「楓」「コップ」など……で、人間ははじめてその存在(事物)を他のものとは違うものとして認識し、その認識を共有することができるようになります。
このような「名付け」の持つ効果は、古い時代の「言霊信仰」=言葉そのものが特別な力を持ち、人間や事物の存在を支配すると言った信仰として信じられてきました。
日本を含む東アジア(漢字文化圏)において、人の名前を「諱(いみな)」と呼ぶ習慣がありました。この「諱」とはもともと「いみな=忌み名」という言葉から来ており、その表現からもわかるように「呼ぶことが憚れる名前」のことを意味します。
人が生前に持つ本名は「諱」であり、親や主君といったごく限られた目上の立場の者以外、他人の本名(諱)を呼ぶことはタブーとされていました。そのため、成人して社会に加わることになる人間に対しては「本名(諱)」にかわって「仮の名前(字)」を用いることが一般的でした。
よく知られる例としては「諸葛孔明」などがあります。「諸葛」は名字、そして「孔明」は字に当たります。孔明の本名は「亮」といい、彼の親や主君は「諸葛亮」と呼びました。時折、「諸葛亮孔明」という表記が見られますが、これは「諱」の文化としては誤りで、彼の名前を記す場合は「諸葛孔明」もしくは「諸葛亮」と表記するのが妥当です。
こうした“本名”を呼ぶことを嫌う文化を「実名敬避俗」と呼びます。
■「実名敬避俗」の文化はキリスト教圏にもあった?
旧約聖書には“「主」(神)の名前をみだりに唱えてはならない”という記述があり、現在のキリスト教文化圏にも、遡れは「実名敬避俗」のような、本来の名前を呼ぶことを忌む文化があったことを感じされます。
小説『ハリーポッター』シリーズには、主人公の敵役「名前を言ってはいけないあの人」と呼ばれる人物、ヴォルデモートが登場しますが、これは前述の聖書の記述が元ネタになっているとも言われています。
洋の東西を問わず、「名付ける」という行為は特別なものとされ、名前を呼ぶことに特別な意味(力)があったとする考え方は古くから存在していたことは間違いありません。
■「その名を知っては行けない、考えてはいけない」恐怖の存在
その名前を知ってはいけない。そんな恐怖の存在を描いたホラー映画が「バイバイマン」です。
舞台はアメリカのウィスコンシン州。3人の大学生が引っ越してきた古い屋敷で、封じられていたある者を呼び起こしてしまいます。それは、その名を知ったり口にするだけで死がもたらされるという恐怖の存在、「バイバイマン」でした。
彼らの周囲で、「バイバイマン」の名を知り、口にしたものたちが次々に殺されていきます。はたして彼らは、死の運命から逃れることができるのでしょうか?
『バイバイマン』は2017年7月8日より、全国で公開予定です。